2014年08月03日

「稲作産業は成長産業か(吉田不二夫論考、2014年8月2日投稿)」への松井幹雄先生からのメール

おはようございます、松井です。7月例会での貴兄の発表を聞き逃しました。すると要約版が投稿され、報告の概要を知ることができました。大潟村関係者への聞き取り調査など、吉田さんの真摯な取り組みに改めて敬意を表します。ただ、稲作農業は、高付加価値化、規模の経済の2点で制約があり、劣後産業であって「成長産業たりえない」という結論に、少し違和感があります。その根拠は、大量生産方式と規模の経済に関する経済史の研究成果です。例えば、つぎのようなA.D.チャンドラーの指摘に出くわします。大量生産方式、つまり、「大量かつ安定した原材料の工場への流れと、工場からの完成品の同様の流れを生み出す新しい生産方式」が成立するためには、「能率的な機械や設備の開発、高品質の原材料の使用、そしてエネルギーの集約的適用」など技術の革新が不可欠だった。しかし、これらの新技術は、それら単独では効果が限定されていたのであり、「製造設備の設計上の改善や、原材料の流れをコーディネートし労働者を監督するのに必要な管理手法および手続きの導入」など、生産の管理と組織の革新と結びつくことによって、製造設備内を流れる原材料の速度を増し、生産量を劇的に増加させたのである。そしてその結果として、生産性の飛躍的な増大と単位コストの減少が実現したのである。つまり、「規模の経済」と言われる現象を発生史的に見ると、以上のような、旧来作業の解体と新作業組織、新しい管理手法の導入が不可欠だった、ということです。
大潟村での稲作農業が、この「旧来作業の解体と新作業組織、新しい管理手法の導入が不可欠だった」という分野で、どのような挑戦と成果を上げていたのかが気にかかるところです。

吉田さんの稲作農業についての知識、議論を十分に理解しないまま、蛮勇をふるって「稲作農業は成長産業か」について感じたことをまとめてみました。多少なりともご参考になれば幸甚です。
最後になりますが、酷暑の季節、くれぐれもご自愛下さるよう。

追伸;引用文献は、A.D.Chandler,Jr, The Visible Hand,1977(邦訳;鳥羽欽一郎外訳『経営者の時代 上』東洋経済新報社)です。
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2014年08月02日

稲作産業は成長産業か(要約版) - 吉田不二夫

1. 序文
2. 稲作農業大規模化の先駆者「大潟村」
3. 大潟村の現状
3-1.経営状態
3-2.生産効率
3-2-1.全国との比較
3-2-2.大潟村内の規模による比較
4. 今後の大規模化の可能性
  4-1.促進要因
  4-2.阻害要因
 5.大規模化とスケールメリット
5-1.スケールメリットを阻む「作期」
5-2.生産性向上を阻む農機具の稼働率
5-3.まとめ
6.高付加価値米輸出の可能性
6-1.市場
6-2.日本農家による現地生産との競合
7.我が国農政のとるべき道

  
1.序文
アベノミクスの成長戦略の1つとして、農業分野が取り上げられている。稲作農業に関するその具体的な内容は次の通りである。 
* 農地集積バンク構想による規模の効果の追求
* 農業、農村全体の所得:今後10年で倍増

 国の食糧・農業・農村基本計画では、2005年にすでに以下の目標を立てている。
生産規模の拡大、低コスト技術体系の導入・普及
*生産性の高い水田農業の確立
*所得面で他産業とそん色のない経営が持続される経営体
*目標とする経営体   大規模化  家族経営:15~25ha
法人経営:34~46ha
     集落営農:34~46ha
              1人当たり年間所得 600万円~900万円
今回は、規制緩和によって大規模法人企業の参入を容易にし、これを可能にしようとし
たものとみられる。

 昭和43年に入植を開始した大潟村は、我が国の大規模化の先駆者であり、その規模は、
上記家族経営:15~25haに相当する。今回の計画は、大潟村の規模を倍近く拡大して、スケールメリットを狙おうとしているものと解される。
 そこで本論では、先ず大潟村の経営実態、生産効率を把握し、さらにこれを拡大経営したとき得られるスケールメリットについてその可能性を検証する。

2.稲作農業大規模化の先駆者「大潟村」
 稲作農業の大規模化を追求した先例に八郎潟を干拓して農地化した大潟村がある。
 昭和43年の設立当初、
* 1経営体の経営総面積は約15ha(当時の平均値:2ha以下)
* 圃場1枚の大きさ140m×90m≒1.25ha(当時の平均値:0.1ha)
圃場1枚の大きさは、野球場、サッカー場を想定すれば分かるが、従来の我が国の例から見れば型破りの大きさである。その圃場1枚1枚はいずれも長方形で、1か所に何枚も集まっており、作業効率からみて、極めて好条件である。

3.大潟村の現状
3-1.経営状態 

     表-1  10経営体の平均経営状況     (単位:千円)
平成21年 平成22年 平成23年 平成24年
コメ販売 24,721 19,180 21,463 26,241
畑作物等販売他 3,881 3,785 3,169 3,800
制度交付金 4,470 6,407 9,088 6,481
粗収入合計 33,072 29,372 33,720 36,522
種苗・肥料等諸材料 3,131 3,247 3,517 3,410
農機具 3,870 4,478 5,070 5,204
建物・光熱賃借料等 5,041 5,187 5,715 6,701
その他 4,072 5,265 5,017 4,864
経営費合計 16,114 18,177 19,318 20,180
所得=            粗収入-経営費          16,958 11,195 14,402 16,343
所得-制度交付金 12,488 4,788 5,314 9,861
出所:八郎潟中央干拓地入植農家・経営調査報告書                 大潟村、大潟村農業協同組合       

 表-1は、25ha以上の農地を経営する3経営体、15ha前後を経営する7経営体合計10経営体の平均経営状況を示したものである。
 これらの経営体は、いずれも当主、妻、息子、父親等の家族経営・専業農家であり、経営に参加する人数(2.5人~3人)から考えて、制度交付金を差し引くと、サラリーマンの平均年所得440万円(平成20年~24年の平均)よりもはるかに少ない。さらに年によるバラツキが大きい。
 今後更なる大規模化、技術開発等によって生産性を上げなければ、稲作経営は厳しい状況にあることを示している。
 今回ヒヤリングを行った農家はいずれも総面積25ha以上、単位圃場面積も2.5ha以上
の優良農家であるが、食用米(コマチ、標準米)以外に加工用米(醸造用、もち米)、大豆、野菜等も作っており、加工用米の収益が最も良いとのことである。また加工用米は、植える前から量、金額の売買契約を行っており、国もこれを補助しているので、極めて安定した収入源になっている。標準米のみの生産では、如何に経営が厳しいかを物語っている。

3-2.大潟村の生産効率 
  注)生産効率を検討する前に
  稲作農業では、単位農地面積当たりの収穫量が重要なカギを握る。この値は単収(単位収穫量=土地生産性)と呼ばれ、一般的に地形、単位圃場面積等には依存せず、品種、日照時間等に依存し、したがって規模の効果はないものと考えられている。

 3-2-1.大潟村と全国との比較
先ず大潟村と全国の比較を行う。表-3は、水稲10a当たりの生産費の推移を全国との対比で示したものである。
表-3 大潟村水稲10a当たりの生産費と全国比の推移

昭 和    50年 昭 和    60年 平 成    15年 平 成    20年 平 成     21年 平 成    22年 平 成    23年
大潟村 58 91 104 101 98 103 105
全 国 78 137 122 121 121 120 119
対全国比% 74 66 83 81 81 86 88
      単位:千円/10a
 出所:八郎潟中央干拓地入植農家・経営調査報告書   大潟村、大潟村農業協同組合       

大規模農場の大潟村に規模の効果が出ていることが読み取れるが、次第に両者の差が小さくなっている。これは、稲作技術全般の指導が行き渡って、規模の効果以外の要素が効いて来たものと解される。

 3-2-2.大潟村内の規模による比較
   表-4 水稲10当たりの規模別生産費比較
平均規模層 大規模層
変動費 21,328 26,249
建物・土地改良費等 12,337 10,185
賃借料等 16,286 18,477
農機具費 27,494 20,699
労働費 35,415 38,986
費用合計 112,860 114,566
  単位:円
    出所:八郎潟中央干拓地入植農家・経営調査報告書   大潟村、大潟村農業協同組合    

表-4は、大潟村における大規模経営体と平均経営体の、水稲10a当たりの生産費を比較したものである。大規模層は25ha以上3経営体の平均値、平均規模層は15ha前後7経営体の平均値になっている。

 この比較から分かるように、経営総面積の大きさでは、規模の効果は殆どないと言ってよい。因みに圃場1枚の大きさは、いずれも同じ値である。
 この値は平成24年のものであるが、平成23年値もほとんど変わりはない。
 しかし、表-4を詳細に見ると、大規模層は変動費が平均規模層より大きく、農機具費の値が小さくなっていることである。これは、大規模層で加工米等の高付加価値米のウエイトが高くなっていることにあるものとみられ、今後標準米のウエイトを高くした場合を想定すれば、農機具費の小さいことが効いて、現状では規模の効果はある程度あるものと見ることができる。

4.今後の大規模化の可能性
  注)大規模化を考える際の留意点
稲作経営の大規模化には2つの側面がある。1つは総面積の大規模化であり、他の1つは、圃場1枚当たりの大規模化である。
 農機の大型化による省力化、農作業の効率化を考えるとき、重要なのは圃場1枚当たりの大規模化である。その理由は、農機の操作上、畦、水路、農道等によって遮られずに、また長い直線距離を運転することが可能になるからである。

 4-1.促進要因
 促進要因としては、まだその技術が確立されてはいないが、種もみを圃場に機械で直接播く直播方式がある。従来の田植機は、苗の積載量が増すと、(圃場が軟質であるため)その重量に耐えられず、単位圃場面積を大きくしても農機の大規模化に限界があり、したがって大きな省力化にも繋がらなかった。まだ実験段階ではあるが、直播方式を導入することにより、この問題は解決するものとみられる。

 4-2.阻害要因 
  【地形】
 最も大きな阻害要因は地形である。水平で長方形の大型単位圃場(1枚田)が取れる地形が大量に必要になる。1枚、1枚の圃場が野球場、サッカー場以上の規模の土地を、必要量の何割確保することが可能だろうか。しかもこれらの圃場がある程度集約して存在する必要がある。

  【水平性の維持】
 例えそのような土地を確保できたとしても、あまりにも単位圃場が広大になると、圃場
の水平性の維持が困難になる。
 稲の特性として、その育成中のある期間は、稲を一定の水深中に保つ必要がある。当初圃
場を整備した際水平に造成するが、年々土壌の変化が起きて、部分的、全面的に傾きが生ず
る。これをレベラーという機器で修正するが、機器の費用(1台700万円~1千万円)が安
価ではなく、運用・管理の作業が煩雑で、労力とともにコストがかかるので、規模拡大には
限界がある。

  【各種規制】
 農業委員会等の規制は、阻害要因の最たるものであるが、ここでは、すべての規制がなく
なったものとして、大規模化の効果を検討している。

5.大規模化とスケールメリット
 我が国の農業は、小規模経営の中で技術革新によってコメの品質改良、省力化を果たして来たため、他の産業のような大規模化による省力化、量産化による産性向上などのプロセスを経なかった。そこで今、経営大規模化によるスケールメリットを追求しようとしている。
しかし、「単収」(土地生産性)は、先にも述べたように、規模に無関係である。稲作農業にはそれ以外に、固有のスケールメリットを阻む要因がある。それは、「作期」である。またそれに伴う農機具の低稼働率が、生産性の向上を阻む。

5-1.スケールメリットを阻む「作期」
田植え時期は、温度、日照時間等の微妙な条件が必要であり、この選択を間違うと収穫量、品質等に差が出る。これを田植えの「作期」と言う。短い最適な「作期」を選択して、その期間に田植えを完了する必要がある。他の農作業についても同様である。

「作期」に絡めて次のような事例がある。
 たとえば、「大潟村の複数の経営体が協業して(さらに大規模化して)農機を持ち合うことはできないか。」答えは、「難しい」。
 上述したように、稲作には「作期」がある。いずれの経営体も最適の「作期」に農機を動かしたいと考えるので、農機の奪い合いになる。結局農機を増やさざるを得ない。
 同様のことは、1経営体が規模を増やしたとき、大型農機を用いるより、汎用型の数を増やし、人手も増やすことになる。
このことは、農機には適正規模があり、いたずらに農地の大規模化に合わせて大型農機を導入しても、効率化にはつながらない。スケールメリットに限界があることを意味している。大潟村の現状を見ると、現在の大潟村の規模が一つの限界一歩手前で、国の目指す2倍に及ぶ大規模化は無意味だと考えられる。

 5-2.生産性を阻む農機具の稼働率
 稲作農業においては、「作期」に絡んで、農機具の稼働率が極めて低くなる。

表-5   大潟村における農機の稼働時間
平成23年 平成24年
最 短 最 長 平 均 最 短 最 長 平 均
トラクター 82 352 205 138 306 232
田植機 32 86 57 40 100 62
コンバイン 52 143 90 64 155 97
   単位:時間
出所:八郎潟中央干拓地入植農家・経営調査報告書  大潟村、大潟村農業協同組合 
表-5は、大潟村の複数の経営体を抽出し、トラクター、田植機、コンバインの稼働時間を示したものである。統計的な意味はないが、おおよその稼働時間が推測できる。
 稼働時間にばらつきがあるのは、経営体によって水稲作付面積に差があることによるが、注目すべきは、田植機、コンバインなどは、最長で3週間程度しか稼働していないことである。年52週の内、僅か3週間しか稼働していない。トラクターは用途が多岐にわたるので、田植機、コンバインよりは長時間稼働している。
 このように稼働率が低いのは、稲作に「作期(季)」があるからである。その期間のみ田植機は稼働する。他の農機についても同様である。したがって農機の稼働率は低く、資本生産性の低下を招いている。
 これを解決するために、品種を組み合わせるなどの各種方策が考えられているが、適当な解決策はない。

5-3.まとめ
 大潟村は現状でも制度交付金を受けなければ、一人当たりの年間所得はサラリーマンの平均所得に及ばない。今後さらに大規模化を進めても、「作期」、「農機の低稼働率」により、スケールメリットは生まれないと解するのが妥当である。
すなわち、標準米を生産している限り、成長産業たり得ない。ましてや海外から安価な米が輸入されれば、存続すら疑われる。

6.高付加価値米輸出の可能性
 残された道は、単価アップである(注)。標準米での単価アップは上記理由で無理なので
有機米等のこだわり米、ブランド米などの差別可能な米に依存することになる。
 (注)産業成長論的に見て、いずれの産業も当初は量産効果により、単価を下げる方向に
進むが、経済の成熟に伴って、可能な限り、知識集約(ブランド化、ファッション化)、技
術集約による単価アップで生産性をアップさせている。

 日本のブランド米は、東南アジアの富裕層に人気があり、台湾等への輸出量は、表-6     
のようになっている。
表-6 日本産精米輸出量の推移
2005年 2006年  2007年 2008年 2009年
数量 金額 数量 金額 数量 金額 数量 金額 数量 金額

台  湾 413 169 593 161 450 175 453 168 333 115
香  港 99 57 155 74 218 119 341 172 481 206
シンガポール 63 35 63 40 92 48 173 81 185 79
中  国 0 0 2 7 不明 不明 26 49 17 28

合  計 634 320 967 427 940 527 1,294 641 1,312 545

    資料:貿易統計(援助用は除く)         単位:トン、百万円

 価格も極めて高価格で、台湾:600~1,300円/Kg、香港:800~1,500円/Kg、シンガ
ポール:750~1,000円/Kg、中国:1,400円~1,500円/Kgとなっており、日本の小売価
格350~400円/Kgに比べて2倍以上である。
 したがって、多くの生産者、商社が売り込みを図り、政府も力を入れているようである。

 稲のブランド品等を輸出するに際して、その成長を占うに、2つの観点がある。
 6-1.市場
日本のブランド米は、その味覚の良さからアジアで非常に人気が高い。しかし、現在富裕層に高価格で売れているコメが、経済的中間層に普及する状況は想像し難い。
周知のように、アジア諸国の経済成熟度は、日本より低く、中間層の所得も日本よりはるか
に低位にある。したがって、日本ですらブランド米の需要量は標準米の約1割という状況からみて、大きな需要増は望めないと考えるのが妥当である。

6-2.日本農家による現地生産との競合
農業生産法人・有限会社「新撰組」は、愛知県知多半島で約80haの稲作を行っているが、2010年からタイに進出、コシヒカリの試験的生産を始めた。すでに一定の成功をおさめ、今後数年以内に8千ha(大潟村干拓地の約半分)のコシヒカリ生産を始める予定にしている。最終目的は、日本に逆輸入することにある。価格競争力からみて、日本産に分があるとは言えない。

 結論的にいうと、6-1.6-2.の結果からみて、コシヒカリの輸出増に期待していて
も日本の農業は成長しない。

7.我が国農政のとるべき道
 日本農家が海外に進出して現地で生産したコシヒカリが価格的に優位に立ち、日本産コ
シヒカリを凌駕する可能性もあるが、味覚など他の要因で日本産コシヒカリも残り、標準
米約9割、ブランド米等高付加価値米約1割の生産バランスが続くことになるものとみら
れる。そのような状態でも、規模を拡大した農業経営体は、国の目標通りの所得を維持する
ことは、先にも述べたとおり不可能である。

 ここで問題になるのは、規制緩和によって参入を試みる法人企業の存在である。今回の
ヒヤリングによれば、農業専門家の指導を得れば、参入そのものは難しいことではないが、
経営が思わしくなくなったとき、簡単に稲作放棄をする可能性のあることだという。一旦
放置された農地の回復は困難だからである。

 次いで予想されることは、稲作農業が産業成長論的に見て、製品の高付加価値化による
単価アップが難しい劣後産業であること。いずれ、優位な産業への労働力移動が起こり、綿
紡績業、製紙産業のように衰退の運命をたどらざるを得ない。

 結論として言えることは、「稲作農業は規制緩和をしないから成長しないのではなく、規
制緩和を完全に行っても成長産業ではないことを肝に銘じるべきだ。」ということである。


 このような状態では、国は次の2点を重点課題として農業政策を考えるべきである。
①  食糧の安全保障
②  農業を中心とする緑の環境保全
① について考えられる1つの方向は、国と農業経営体との契約販売。毎年、農業経営体
と国との間で、一定量、一定価格の売買契約を締結することである。

人口1億、500万トンの生産量を想定し、国は買い入れたコメを輸入価格と競合可能な価格で売れば、1兆円余の負担で済み、財政負担の額から見て現状と大差はない。

 先進国の農業所得に占める国の交付金(直接支払い)の割合は(注)、アメリカ26.4%(小麦62.4%)、フランス90.2%、イギリス95.2%、スイス94.5%で、農家は一種の国家公務員になっている。このことは、先進国においては農業が産業成長論的に劣位産業であるため、食の安全保障的観点から国が保障せざるを得ないことを意味しているものと考えることができる。
(注)「よくわかるTPP48のまちがい:鈴木宜弘、鈴木順子著、農村漁村文化協会」による。

 我が国の有識者、専門家と言われる人も、農業はその特性から、短期的(10年以内)にも長期的(その後)にも重要産業ではあるが、成長産業ではないことを認識すべきである。


 謝辞:今回の調査では、秋田県大潟村産業建設課および、経営体の方々に資料の提供、実態の説明、圃場への案内等一方ならぬお世話になったことを深く感謝する。
    また、本論のまとめに当たって議論頂いた諸氏にも謝意を表したい。
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2014年03月30日

アベノミクスの1年を振り返って-今、見えてきたこと - 林川眞善

               -  目  次  ―

はじめに:順調に進んできたアベノミクスですが 
1. アベノミクスの1年を振り返る
― 指標にみるアベノミクスの成果と課題
          (1)経常収支の赤字が示唆すること
          (2)企業の設備投資の伸び悩みが意味すること
2.アベノミクスと、国際環境のいま
          (1)安倍政治の右傾化と日米関係
          (2)対ロ制裁と日本の立ち位置
おわりに:ポスト・アベノミクスは‘水素経済’へパラダイムシフトを

  
はじめに:順調に進んできたアベノミクスですが

3月3日付日経新聞が一面トップに掲げた「政府フアンド、日本株買い」の記事は筆者の関心を強く引き付けるものでした。その内容は、海外の政府系フアンドが日本株投資を拡大している様子を報じたもので、具体的にはノルウエー政府年金基金が昨年末で約3兆7千億円の日本株を保有し、1年前からほぼ倍増しているというものの他、中東、アジアの政府系フアンドの日本株投資の拡大状況も同様に伝えるものでした。そして、彼らの保有銘柄は1284、この内、保有額が多い銘柄は、トヨタ、ソフトバンク、フアナックという事ですが、こうした動きはアベノミクスを機に日本企業の構造改革が進み、成長力が高まるとの期待がそうさせている、と言うものでした。

周知のように2012年12月26日、それまでの民主党政権に代わって誕生した安倍新政権は、自らを「危機突破内閣」と称し、長期のデフレと円高で苦しむ日本経済の再生に向け、まずは‘デフレからの脱却、そして円高の是正と日本経済の競争力の回復を図り、日本経済を成長させていく事を通じて、日本を取り戻す’ことを目指し、2013年1月4日、三つの矢(金融緩和、財政出動、成長戦略)からなる経済政策「アベノミクス」を発表しました。

果たせるかな、昨年4月に始まった第1の矢、異次元の大幅な金融緩和政策の実施で、それまでの円高は是正が進み、株式市場は活性化し、企業収益の改善も進むなか、個人消費も回復をみる一方、第2の矢と言われる補正予算とも併せた大規模財政出動を受け、公共投資が進むなどで、需要は回復、日本経済の環境は急速な改善が進み、明るさを取り戻してきました。まさにデフレ脱却への道筋が見えてきたと言うものです。

因みに、2月17日、内閣府が発表した2013年第4四半期の実質GDP(速報値)は年率で前年比1.0%増と、4四半期続けてのプラス成長となっていますし、同じく2月24日に発表された「需給ギャップ」(需要と潜在的な供給力の差)の試算では、2013年第4四半期にはマイナス1.5まで縮小(改善)しています。これも4四半期連続での改善で、少しずつ供給過剰が和らぎデフレ圧力が弱まってきたことを示唆する処です。リアルの経済活動でも、1月の景気指標は軒並み改善してきており、鉱工業生産指数は前月比で4.0%上昇と高い伸びを示したほか、有効求人倍率も前月比0.1ポイント上昇で1.04倍となっていますし、総務省発表の1月消費者物価指数もプラスと、安倍政権が目指すデフレ脱却への道筋が見えてきたとされる処です。 

(注)3月10日、内閣府が発表した2013年第4四半期のGDP改定値では実質成長率は0.7%に下方修正されています。その主たる要因は設備投資で、速報値の0.8%増から0.5%に修整されたことが大きく影響した結果ですが、後述輸出の伸び悩みなどを受け国内での大型投資に企業が慎重になっていることを示唆する処であり、この辺りが問題の本質を映す処と思料するものです。

以上の推移に照らし、政府は3月月例経済報告では景気の基調を「緩やかに回復している」と判定しています。そして大規模と言われる2014年度の予算案(一般会計総額、95兆8823億円)は3月20日、参院で可決され、年度内の成立をみたことで、経済再生とデフレ脱却を目指す安倍政権の予算は、新年度当初から始動できる環境も整ったと云う処です。つまり、アベノミクスは漸くみえてきた回復への道筋を本格回復につなげていく、そうした期待を以って2年目に入るというものです。

しかし、そうした環境にも拘わらず、アベノミクスはいま転機にあるように見受けられるのです。というのも、いま明るさを取り戻してきたと言う日本経済ですが、現下の回復が金融と財政だけに支えられたものであること、従って実体経済が動き出さないかぎりにおいては、これが本格回復には至らず、結局はシュリンクしてしまうのではとの懸念が広がってきています。その点、安倍首相は、この6月には第3の矢、実践的な成長戦略を打ち出すとしており、期待する処です。

が、それ以上に問題なのは、近時GDP指標の推移からわかるように、日本経済が向きあう構造問題が鮮明となってきたという事です。具体的には後述する通り、経常収支の赤字の拡大と、(これは輸出の伸び悩みというよりは、主として円安効果による輸入額の増大による貿易赤字の拡大を映すものですが)、従来、経済成長の誘導要因とされてきた企業の設備投資が伸び悩んできている、という事ですが、問題は、これら指標が示唆する動きが構造化しつつあるという事で、これら問題への対応を踏まえた更なる戦略の構築が不可欠となってきた、そう言った意味でアベノミクスはいま転機に置かれてきたと云うものです。

加えて、こうした純経済的問題を超えて急速に進む内外での政治環境の変化が更に、アベノミクスの先行きに不安を託つ処となってきているというものです。
それは、近時、国家主義的行動にカジを切りだした安倍首相の政治姿勢に負う処ですが、これが右傾化として中国、韓国はその批判を強めていますが、ここに至って‘同盟国たる米国’からも安倍首相の政治行動を公に批判する等で、日米関係がギクシャクし、時に隙間風すら流れる状況になってきているという事態です。日米関係は日本の政治経済の運営の基本軸にあっただけに極めて問題と思料される処です。更に、現下で進むウクライナを巡るロシアと米国・欧州の対立で、新冷戦とも称されるような国際環境にあって、日本の対米、対欧,対ロシア姿勢の如何が問われる状況にあり、要は、安倍政権は今、経済政策と外交・安全保障政策のバランスをどう取るかと言う極めてデリケートな問題との対峙を余儀なくされているのですが、それはまた大きな要因と見る処です。

つまり、これら内外にみる政治経済の環境変化は‘アベノミクス’の基盤にかかるものだけに、今後の対応の如何が問われる処であり、まさに転機に立たされる‘アベノミクス’を感じさせられるというものです。デフレからの脱出への道筋が見えてきた状況にある処ですが、仮に、そうした内外環境の変化が強まり、‘経済’はその後、といったことにでもなれば、結局はアベノミクスの頓挫は避けられず、最悪の場合、大量の財政赤字を抱えたまま、日本経済は再びデフレ経済に逆戻りかと、懸念されると言うものです。

そこで、本稿では、アベノミクスが2年目に入るのを機に、アベノミクス1年のレビューを通じ、そこに見るマクロ、ミクロの構造問題につぃて、日本経済の持続可能な発展という視点から検証し、同時にアベノミクスを巡る内外環境、とりわけ日米関係に焦点をあて、その実情を分析し、要は、これからの日本経済が目指すべき姿について、論じていきたいと思います。


1.アベノミクスの1年を振り返る
―指標にみるアベノミクスの成果と課題

20年来、デフレに喘できた日本経済はアベノミクスという政策展開を以って、いま漸く明るさを取り戻してきたこと、そして、その動きを本格回復軌道に乗せていく為には成長戦略の具体化、実行が求められる実情にある事、前述の通りです。
しかし、直近のGDP指標の内、国際収支(経常収支)、設備投資の動きは、実体経済が抱える構造的な問題を映し出す処となっています。具体的には、‘経常収支の赤字拡大’、そして‘設備投資の伸び悩み’、ですが、両者の動きは実体経済が抱える問題の構造化を示唆する処となってきており、それへの対応が大きな課題となって迫ってきていると言うものです。では、これをどう評価し、どう対応していくべきか、ですが、それはアベノミクスを生かすことが出来るか否か、が問われていくプロセスとも思料され、その点でアベノミクスは転換点にあると言うものです。以下、二つの問題に絞って論じていきます。

(1)経常収支の赤字が示唆すること

3月10日、財務省が発表した1月の国際収支(速報)では経常収支(貿易収支、サービス収支)が1兆5800億円の赤字となっています。(但し、輸出は5兆5167億円と17%増。)これは‘85年以降最大の赤字で、しかも、4か月連続の赤字という初の経験でした。この赤字の背景は、円安の進行で輸入価格が膨らむ一方で、輸出は企業の海外移転、現地調達が進む結果、円安による輸出の押し上げ効果は限定的となっており、いま純輸出(輸出-輸入)はGDPでの減少要因になっていると言うものです。勿論、経常赤字は、内外の市場環境と、企業の経営姿勢を反映した結果というものですが、この点については次項の投資問題と併せ、論じたいと思います。従い、ここで問題とするのは、単に経常赤字が悪い、黒字が良い、と言った事でなく、これが回りまわって国の財政の在り方の如何が問われていく事になると言う点、つまり日本経済の運営という、より基本的な構造問題としての視点から論じてみたいと思います。

周知のとおり、これまで「財政赤字」は国債で穴埋めすることで推移してきています。そして、この国債消化には、これまで好調な輸出(貿易黒字)が齎してきた経常黒字が充てられてきています。その点で、「経常収支の赤字」が続くとなると国債の消化が安定的に進め得るのかと、現在の財政構造を前提とする限り、この推移の如何では、事態は更に‘深刻なもの’となりかねないのという事です。パラドクス的に言えば、外的要因に影響されることなく財政を維持していこうとすれば、「入る(歳入)を図り、出る(歳出)を制す」という二面作戦での‘財政の合理化’‘に挑むことが必然となる処です。

まず、歳入の強化という点ですが、現下のアベノミクスの文脈においては、何よりも景気を回復させること、そして企業の活力を高め、法人等の税収入を上げていく事が、第一義となる処で、その為には、現在活力を阻害している要素、規制の改廃を実行し、雇用の流動化、税制の改革を進めていくかが喫緊となる処です。もとより、これが6月に予定されるアベノミクスの新成長戦略に組み込まれていくべき処というものです。一方の歳出抑制という点では、常識的には不急不要の支出の選別は言うまでもないところですが、その際は、特に念頭に置いておくべきは少子高齢化が齎す影響です。人口減少、とりわけ労働者人口の減少(注)で、税収入面でも大きく影響が及ぶ処ですが、何よりも高齢化の進行で社会保障費の拡大で財政運営は今以上に厳しくなっていく事が予想される処です。

(注)3月12日、内閣府纏めの2060年時の労働力人口は、出生率が大幅に回復し、北欧並みに女性や高齢者の労働参加が進んでも約50年で、1170万人、労働力人口が減ると予想。女性活用などが進まない場合、減少幅は2782万人に拡大すると。

勿論これは、長期的構造的問題であり、一朝一夕に解決可能なテーマではありません。が、人口動態からはリアルに想定できる課題である点で、財政の健全化、合理化を進めていく上で、まず医療等の利権がらみの諸規制の改革に踏み込んでいく事で、歳出拡大を抑えていく環境づくりを進めることが喫緊の課題というものです。つまりは、国債への依存率を下げ、規律ある財政に持って行くためには、これは、いま日本経済が抱える基本問題ですが、規制改革こそがその核心の一つという事です。そして、これこそは‘政治’の出番とされるだけに、安倍政権の本当の力量が問われる処と思料するのです。

(2)企業の設備投資の伸び悩みが意味すること
― 企業はいま経営革新を

次に問題とされるのがこれまで経済の成長誘因であった企業の設備投資が伸び悩みにあるという現実です。その現実とは、特にリーマン以降、リーマン後の企業は、経営の合理化、資金の効率追求等に走り、極めてリスクコンシャスであり、新規投資は抑制的で、その結果は不稼働資金といわれる内部留保となって企業内に留まる処で、経営は内向となってきたという事情です。この間、経済のグローバル化が進み、そうした環境にあって、企業はコストと市場の可能性を考えた限界的な海外進出を進めてきた結果、国内的にはいわゆる空洞化が進み、日本からの輸出は伸び悩み、輸出需要を見込んだこれまでの設備投資も鈍化してきたと言う事です。

しかし、そうした経営はいま変革を求められてきているのです。つまり前述した通り、人口動態からは、縮小が予想される国内市場に目をやっていただけでは、企業は自らの成長に限界を招くことを自覚し、従って、そうしたトレンドを断ち切るためにはポテンシャルの高いグローバル経済を取り込んだ経営にシフトすることが不可避となってきていると言うものです。つまり、激変するグローバルな競争環境、変化する‘競争の形’を含めた海外市場の構造変化を常に読み解き、戦略的製品開発のための設備投資を進めていくことが不可避となってきており、こうした環境変化を味方とした企業へとスタイルを代えていかざるを得ない状況にあるのです。ハーバード・ビジネス・スクールのクリステンセン教授が予てイノベーションには三つの形があり、一つは現状維持のためのイノベーション、一つは合理化のためのイノベーション、そしてもう一つは市場開発に向けたイノベーションだとしながら、いま日本企業に求められるのは第三のイノベーションだとアドバイスをしています。つまりは経営の革新です。それはかつてホンダやソニーの経営者が見せたような市場創造の経営姿勢に迫るとも云うもので、これこそはデフレ経営脱却に繋がる処です。


改めて、現下の景気回復が金融緩和による円安効果に支えられたものである限り、リアルで実弾の欠ける経済状況では、回復歩調も限界が見えてくると言うものです。つまり、日本経済の成長回復やデフレ解消と言った大きな問題は、株価の改善と直接関係するわけではないという事、従って、この際は、危機感を以って、現下の回復過程で鮮明となってきた上述課題、問題を来たるべき成長戦略のテーマとして早急、具体的に対応していく事が必定であり、かかるアクションがない限り本格的な経済回復はありえず、アベノミクスはいま2年目を迎え、大きな転機にあると言うものです。
要は、回復しつつある日本経済を本格軌道に乗せていくべく、国も企業も内向き姿勢を排し、財政の支援に頼ることなく、これまでの経済の活力をグローバル経済との連携強化を通じて、持続的なものとしていく事、そして、予て首相が云うように働きやすい環境づくり、規制の改革に向けた具体的行動を早急に起こすべきと思料されるのです。

因みに、2月18日付Financial Timesは `Breathing new life into Abenomics ‘ と題して、今後不安が付きまとう点として、次のように指摘するのです。
つまり、円安の恩恵を享受する企業が輸出や海外で挙げた利益のほとんどを経済に還流させていない。投資意欲を失っているだけでなく、従業員の賃上げを避けている。賃上げを通じて新たな資金を経済に注入すれば消費者の購買力を支え、多くは企業に戻ってくる。ただアベノミクスの将来が日本企業にかかっている事はおかしい。法人税の引き下げを通じて消費増税の影響を弱めるなど政府ができる事はもっとある。構造改革も然りだ。「三本の矢」の内、最も期待はずれなのは構造改革とし、更なる息吹をアベノミクに注入すべし、と言うのです。


2. アベノミクスと国際環境のいま
―安倍政治の右傾化と日米関係

さて、上記Financial Timesに批判をうけたアベノミクス第3の矢「成長戦略」ですが、以上の事情からは、新たな産業政策の整備と、それを踏まえた実践的なシナリオの策定が必定というものです。ただその政策運営については‘内なる変化’、‘外なる変化’を勘案するとき、先に指摘した以上に、いま転機に遭遇するアベノミクスを感じさせられる処です。ここで言う内なる変化とは、安倍政治の右傾化、であり、外なる変化とは日米関係に見る変化です。

(1)安倍政治の右傾化と揺らぐ日米関係

周知の通り、安倍首相は近時、国家主義的姿勢を急速に強め当該政治行動を進めています。そして、これが齎す対日批判が構造化してきていることが今、大きな問題となってきているのです。昨年の後半、特定秘密保護法案が出されたころから安倍首相の右寄りの言動が顕著となってきていますが、昨年末の安倍首相の靖国参拝はその極みとする事件でした。更には集団的自衛権行使容認問題に向けた行動、エネルギー政策と原発問題、中断したTPP交渉、NHK会長の発言問題等政治事情に追われ、更には後述するようにウクライナを巡る米欧とロシアとの対立の狭間にあって日本の立ち位置を探るなどで、いまや経済問題の影が薄くなってきていることが大いに気がかりというものです。

安倍首相のこうした行動に対して中国、韓国は一層の対日批判を国際的に繰り広げていますが、それ以上に問題なのは、同盟国たる米国までもが靖国参拝を巡って、公に対日批判を行うようになってきたことです。(注)

去る12月の安倍首相の靖国参拝は歴史問題を云々する中国、韓国との対立を深める処となっていますが、同盟国米政府も参拝に対しdisappointed,「失望」と、今までにない表現で安倍首相を批判したのです。靖国神社は中国、韓国からは自責の念のない日本の軍国主義の象徴とみなされており、米国政府も内々にはこれまで靖国参拝への不満を述べていたのです。しかし、公然と批判発言をしたことは初めての事で、日本政府は驚いたと言われています。一方、日本の首相周辺からはこうした米国に対する批判発言が出るなどで日米関係には隙間風が吹き出していると言うものですが、どうも‘いま変わりつつある米国’そして‘日本にいらだつ米国’への理解の乏しさを感じさせる処というものです。

因みに、日米双方のすれ違いについてFinancial Times (2014/2/20)は以下のように指摘するのです。同紙は`Washington regrets the Sinzo Abe it wished for’、つまり、安倍首相を望んだことを米政府は悔やんでいる、というのです。というのも、1950年以降、ずっと米国は日本に対して今安倍首相が提唱する国防態勢を取ることを迫って来ていましたが、日本は、これを平和主義を謳った憲法9条を以って拒否する一方、米国の核の傘の下、経済成長を果たしてきたと、つまりフリー・ライダー論がそこにあったのです。しかし、60年を経た今、日本には米国の要請を言葉通りに受けとめる指導者、‘安倍晋三’が出てきたというのですが、その彼の直近の言動からは、日本をいまや「予測不能で危険」な国(ケリー国務長官)とみなすまでになってきたというのですが、その背景には、日本のナショナリズムが北京で対抗措置を引き起こすことへの不安があると指摘するのです。

この点、オーストラリアの学者で元国防相の高官のヒュー・ホワイト氏のコメントをリフアーし「米国としては、中国と対立の危機を起こすくらいなら日本の国益を犠牲にする」事を意味しているとも言うのです。いずれにせよ、米国の望みに逆らって靖国を参拝する事は、常に、日本は米政府の命令に従うわけではないと言う合図を送る一つの方法ではないかというのです。そして、そうした右派の奇妙なところとして、彼らは最も熱心な日米同盟支持者だとも指摘するのですが。

(注)高まる米国の対日批判:
①米議会調査局:2月20日付の米議会調査局がまとめた日米関係報告書では、靖国参拝が日中、日韓の関係を一段と悪化させた、と指摘すると同時に米国の制止を振り切って参拝した安倍首相を「日米関係を複雑化させる指導者としての本質をはっきりと証明した」と批判しています。尚、昨年、参院選後の日米関係について、同様の懸念を伝えていましたが、(2013年9月号、弊論考)それが更に加速したと言う処です。
  ②NYタイムズ紙:3月2日付(電子版)Mr. Abe’s Dangerous Revisionism と題し、安倍
首相の姿勢を「ナショナリズム」と指摘し、靖国参拝、国家主義的行動が日米関係の「ますます深刻な脅威になっている」つまり安倍氏の「国家主義」が危険という。

これまでの‘日本経営、’つまり日本の経済・外交の基本軸は日米関係にありました。が、その関係が揺らぎを見せだしたという事は、経済政策たるアベノミクスの在り方も問われていく事になる処、米国の変化を理解し、日本の期待とも併せ関係の再構築が喫緊のテーマと思料されると言うものです。その点、4月に予定されている東京でのオバマ米大統領との首脳会談では、単に、戦争の火ダネを消す姿勢ではなく、戦争がそのタネ火を探している現状を認識し、日米の世界における役割を再確認し,それに沿った双方に求められる行動様式を確認すること、そして同盟関係の再構築を目指すべきですが、その際のポイントは、日本の優位は経済にある事、そしてその優位を日米関係の再構築の中で如何に確かなものとしていくか、にあるものと思料する次第です。

(2)対ロ制裁と日本の立ち位置

更に事態を難しくしているのが、現下で進むウクライナのクリミア半島の統治を巡るロシアと米欧との対立です。この新冷戦構造とも称される国際環境にあって、ロシアとの領土問題を含めた外交関係の改善を進める安倍政権にとって同盟国米国との間で、その立ち位置の取り方が難しくなってきているというものです。つまり、日本にとっては、領土と歴史問題で中国とロシアが組み、日本に圧力を強めてくる事態は避けたい事は言うまでもない処です。だが日本がロシアに配慮して日米結束が傷つけば、かえって中国の対日強硬を招きかねない、という事で安倍政権がどのように対応するか、つまりは米露が対立する状況にあって、米国の同盟国日本の立ち位置が極めて難しくなってきたというものです。

要は、既にそこにある日中関係、日韓関係の悪化進行とも併せ、みるとき、「グローバル経済で勝つ」を戦略軸とするアベノミクスの政策展開は、安倍政治の国家主義的姿勢ともかさなり、難しくなっていく様相を強める処ですが、この際は、安倍政権は‘経済’専一、アベノミクスの仕上げに専念すべきと、改めて思う次第です。


おわりに: ポスト・アベノミクスは‘水素経済’へパラダイム・シフトを

さて、安倍首相は予て「成長戦略の更なる進化を図るために、雇用・人材、農業、医療・介護といった構造改革に取り組む」と明言し、実質2%成長を目指すとして来ています。だが、過去1年、そこで特定されているような動きなどは見られていません。何故か?
言い古されてきた事ですが、‘既得権益’と‘政治’が絡みつき身動きが取れないという事なのでしょう。であればこの際は、成長阻害要因を超えた将来像を描き、それに向かった行動を起こしていくべきと思料するのです。
それは‘アベノミクス後’を描き、それに向けたアクセスをどうするか、そのシナリオを準備していくという事です。そして、その際のキワードは‘エネルギー’であり‘人口減少経済’といえますが、取り敢えずはエネルギーに絞って論じてみたいと思います。

3年前の東日本大震災の直後、東電福島原発の大事故を目の当たりにして、国民の8割が原発反対と声をあげた筈でした。しかし、3年たったいま、安倍政権は、経済成長とエネルギー源確保、コスト面等からみて原発再開を可能とするようなシナリオでエネルギー政策を打ち出そうとしています。そして、反原発の声もいつしか引いてしまってきています。のど元過ぎれば、と言った処なのでしょうか。しかし、東電福島の原発事故処理が‘全く’解決を見ないままにあって、原発再稼働など全くお呼びではない筈です。

では原発に代わる新たなエネルギーをどう考えるか、ですが、有力候補としてあるのが水素エネルギーです。水素エネルギーの活用については、日本は世界的に見て早い時期から取り上げてきており、因みに、経産省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は共同して2002年から「水素・燃料電池実証プロジェクト(JHFC)」を進め現在では、その実証を終え、実用化の段階にあるというものです。

問題は、これまでがんじがらめとなっていた電力の供給システムですが、これがいま自由化へ動き出し始めたのという事で、新たな可能性が出てきたと言う事です。つまりは、小規模企業もこの水素エネルギーを以って市場参入が可能となってきたということで、その可能性が今広がりつつあるのです。勿論、雇用機会も生まれてくる、そういった新しい環境が期待されると言うものです。

偶々、先の選挙で都知事に就任した舛添氏は2020年の東京オリンピックに備え、クリーン・エネルギで動く自動車、燃料電池自動車(FCV)の開発を進め、そのために必要なインフラとしての水素ステーションを設置する構想を打ち出し、その為の戦略会議を立ち上げることを3月5日開催の都議会定例会議で発表しているのです。これは東京という一都市での試みと映りますが、これがオリンピックという機会を生かして進めるプロジェクトでもあることからは、地方への拡がりも進むでしょうし、産業全体に及ぼす効果も甚大なものと期待できると言うものです。勿論PM2.5といった公害問題など全く関係なく、クリーンで、何よりも水素資源は無限であるという事が決定的というものです。勿論、普及が進めばコストも安価なものとなっていく事は言うまでもありません。そしてその変化の枠組みにおいて、規制に守られた産業などの融解も進み、これまでの経済も、新しいシステムに再生されていく事になる筈ですし、それは又、人口減少経済への適応プロセスとも言える処です。
つまり、アベノミクス後の経済として構想されるべきは、20世紀を主導してきた‘炭素経済を水素経済へ’とパラダイム・シフトを図っていく事であり、いまその旗を掲げ‘新しい成長’を目指していくべきと、思料するのです。

さて、近時、安倍首相は経済を手段ともする形で、国防体制の強化に向かう等、国家主義的姿勢を強め、いつしか彼の言行からは‘国民’という言葉も見えにくくなってきています。些かの懸念を禁じ得ません。処で、安倍首相が予て師と仰ぐ高橋是清は、軍国主義の当時にあって、軍備拡張は国民生活に資するにあらずと、当該予算の削減に命を張り、軍と対峙する一方で、常に国民を中心に置く政治を目指した政治家であり、リーダーでした。そうした二人の姿を戴くとき、この際は、リーダーかくあるべしと、今一度、彼には是清に学ぶべきを、慫慂したいと思うのです。

以上
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posted by jtta at 14:56| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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