2014年08月13日

農業の2次・6次産業化と問題点 - 吉田不二夫

1. 序文
前回の調査報告書「稲作農業は成長産業か」において、規制緩和により大規模化を果た
しても、関税撤廃により低価格米が輸入されれば、その成長を期待することは不可能であるとの結論を得た。その概要は以下の通りである。
 昭和43年に入植を行った大潟村(八郎潟干拓地)は、平均農家の10倍近い農地を有し、国が現在目指している大規模化を既に果たしている。
 しかしその現状を見ると、国からの多大な交付金(事業所得の15%~20数%)を得ても、1人当たり所得はサラリーマン所得とほぼ同じ水準である。今後国が、法人企業等の参入を進めても、以下の理由により1人当たり生産性は、大きくは向上しない。
 1つは、「作期」が大規模化の最大の目的である省力化を阻害する。
 稲作のための耕作、田植え、刈り取り等の作業は、「作期」という適期があり、これを逃すと品質、収量等に悪影響が出る。これを逃さないためには、大型農機を用いるより、中型機を多く用い、操作者を増やした方がよい。
 2つ目は、農機の低稼働率が資本生産性の向上を阻むことである。農機の稼働率は、田植機、稲刈機等では最大でも3週間、1年52週の6%程度に過ぎない。
 また、コシヒカリ等の高付加価値米は、東南アジア等の富裕層に高価格で受け容れられているが、市場の大幅な拡大は望めない。また、日本企業のコシヒカリ現地生産が進むと、価格競争力で勝ち目がない。
 以上を総合すると、稲作農業は規制緩和が進まないから成長しないのではなく、規制緩和が完全に達成されてもその成長は期待できない。
 一方、農業の6次産業化、2次産業化には、成長の可能性がある。本論では、この2つに焦点を当てて、可能性と問題点を探ることにする。

2.農業の6次産業化
 農業の6次産業化とは、和食の世界的受容性の高まりを受けて、農家が農業(1次産業)、
加工(2次産業)、和食の提供(3次産業)のすべてに関わろうというものである。
 この6次産業化については、世界の羊毛紡績業界においてその例がある。
 嘗て日本の羊毛紡績業界は、産業としての行く末を見極めるため、イギリス、ドイ
ツ、フランス、イタリアの実態調査を行ったことがある。

 イギリスでは、羊毛紡績はすでに衰退期にあったし、ドイツも衰退の兆しが見えていた。
しかるに、フランス、イタリアではその兆候がない。何故かというのである。
 実態は、以下の通りであった。

 フランス、イタリアでは、超一流のファッションデザイナーを抱える企業(3次産業)
が、川上の糸の種類(羊毛、絹、木綿等)、糸を紡ぐ紡績、織布、染色、加工等すべてを最
終製品に合わせて企画、デザインし、作業を指示する。そのようにして完成されたファッシ
ョン製品から得られる高い付加価値を、川上企業に再配分する。その結果、フランス、イタ
リアでは、川上業者も高い利益を得て、産業としての衰退を免れた。それに反してイギリ
ス、ドイツ(ドイツは2次産業化までは行った)では、そのような6次産業化を行わなか
ったので、経済が成熟化する中で、劣位産業の羊毛産業は衰退の方向を辿った。

 フランス、イタリアの例は、川下が後方統合を行って全体の価値を高めたもので、換言す
れば川下がいわゆる川上のバリューチェーンを統合した成功例である。

 重要なことは、農業6次産業化の主体は、川下の和食を直接客に提供するサービス業
にあるとの認識を持つことである。その企画に沿って、高付加価値の和食が提供され、高い
付加価値が農家にも再配分されるとき、6次産業化は成功するであろう。川下企業と川中・
川上企業との間には、1次的、単発的取引だけの関係ではなく、特定のコーディネーターの
下に、契約関係に基づく一体化がなされていることが必要である。
 すなわち、農業が成長産業なのではなく、高級な和食産業が成長分野なのであり、6次産
業が成長分野なのである。
 周知のようにフランスでは、ファッションの世界だけではなく、食の世界でもフランス料理は中華料理と並んで著名である。残念ながら、フランス料理の世界で6次産業化が行われているか否かを知る情報は持ち合わせていないが、料理提供業者に対するミシュランの評価システムは、一つの下支えになっているものと思われる。
 このようなフランスの動きを見るとき、ファッション製品にしても、フランス料理にしても、国としての文化をパッケージ化して売りこんでいる様子があることに気が付く。

 ならば、和食の売り込みも、食の提供者である料亭等の調度品、調理器具、食器等々、また「茶の文化」なども含めて、あらゆる関連商品・サービスを日本文化のパッケージとして売り込む仕組み、方式が存在するのではないか。
 さらに敷衍すれば、和食、和風ファッション、遺跡、文化遺産、自然環境等々あらゆる日本文化を組み込んだ日本観光をコーディネートすべきではないか。

 フランスの観光客の年間導入数は国民の数(約6,400万人)より多い。日本は昨年1千万人を超えたところで、今年は2千万にしたいという。彼我の差は極めて大きい。
 問題は、誰が主導権をとってコーディネートするかにあり、最終的には、得られた付加価値を川上産業に如何に再配分するかにある。要は、川上産業から川下産業まで1つのパッケージ型産業になっていることが必要だと考える。

 さらにさらに敷衍すれば、今後の成長産業分野は、多くの産業・業種のパッケージ化によって達成される可能性が高い。換言すると、従来バリューチェーン内に無かった業種、産業をも取り込んで、むしろ新たなバリューチェーンを創出して、新成長産業を生み出す必要がある。これは、単なる劣後産業の救済ではなく、活性化でもある。

3.農業の2次産業化
 農業生産を工場で行う動きが加速している。農林水産省、経済産業省でも、植物工場と称し、次のように定義している。
 植物工場は、施設内で植物の生育環境(光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、養分、水分等)を制御して、栽培を行う施設園芸の内、環境及び生育のモニタリングを基礎として、高度な環境制御と生育予測を行うことにより、野菜等の植物の周年・計画生産が可能な栽培施設であると。
 植物工場は、2009年に約50カ所であったものが、2012年には127カ所に増えている。
 農業技術と制御技術が融合したこのような農産物の生産過程は、最早1次産業とは言えず、その生産過程を見る限り2次産業である。
 農業が2次産業化することは、生産性の向上を可能にして成長産業たり得る1つの方向である。すなわち、以下に示す4点のメリットがあるからである。
① 気候変動の影響を受けない
② 病原菌防止、害虫駆除に農薬を使わない
③ 地域の気候に無関係
④ 養液栽培を行うので連作や短期間での養育が可能
現状を見ると、これらの露地栽培品に対するメリットを武器に、ほうれん草、レタス、ト
マト等々の生産物を、高額品はデパートに、また普及品はコンビニ、スーパー、加工業務用に納品し、それなりの成果を上げている。

 一方、長期的に見るといくつかの不安要因がある。
最大の課題は、初期投資が大きいこと。小規模で数千万円、平均規模で1億円以上、大規模化すればさらに大きくなる。事業での先行きが十分見通せない領域での初期投資の大きさは、参入者に体力を求める。

 次いでの不安要因は、事業そのものの成長性である。
 原則論を言うと、あらゆる産業について、日本のように経済が成熟した国において今後も経済成長が続くとすると、成長分野として残るためには、製品の機能、品質を向上させて価格を上げてもユーザーが受け入れてくれることが必要条件となる。低機能、低品質の普及品は、後発国の輸入品で賄われるからである。同様のことは、2次産業化した農業についても言える。
 さらに産業間の競争も考慮に入れねばならない。2次産業、3次産業を含めて、他業種間であっても、1人当たり生産性の低い業種は、長期的に見て他業種への労働力移動を考えねばならない。特に工場農業の現場は人手が多くかかっているので、省力化が大きな課題になる。
 このような状況を背景にして、多額な投資に見合った価格設定がユーザーに受け容れられるものになるだろうか。
 以上のことを前提とすると、採るべき方策は以下の3つに集約される。
① 6次産業化に組み込まれる。
② ブランド化して、国内、海外の富裕層をターゲットにする。
③ 2次産業の中で、パッケージ型産業になる。
① の6次産業化については、すでに述べたとおりである。
② については、さくらんぼ、いちご等の果物に高級ブランドで海外の富裕層に輸出している例があるようだが、今後さらに拡販を狙うなら、①、③型のパッケージ型産業の方向を志向すべきだと考える。
③ については、オランダの花卉が成功例としてあげられる。
オランダの花卉産業は、その生産額、輸出額において、狭い国土にもかかわらず、世界のトップクラスである。その現状と成功要因は、下記の報告書に詳細に記述されている。
*オランダ花き輸出戦略調査:農林水産省:平成21年3月
*オランダの花き産業レポート「プロモーションの仕組とその背景」
日本花き普及センター:本田繁:平成21年5月

 成功の要諦は、農業力(花卉栽培ノウハウ)、研究力、制御技術力、販促力、輸送力、流通ノウハウ等々あらゆる機能を統合化、パッケージ化しているところにある。その組織力が強い。

 日本の工場農業はまだ日が浅く、工業化したという段階に過ぎず、農業技術と制御技術が合体したところであり、栽培ノウハウ(例えば光線の角度で収穫期を制御するなど)を練磨することから出発して、パッケージ化された新しい産業の形を構築していくことが肝要である。

4.終わりに
 フランス、イタリアのファッション産業の例、オランダの花卉の例、いずれも生産から販売に至るあらゆる機能をパッケージ化(統合)して、高額な商品、サービスを提供している。
 顧みるに、日本のように経済がある程度成熟した国では、ある業種が大規模化して大型設備を導入し、省力化を図る中で、低価格製品の大量生産、大量販売を行うといった事業形態は、成り立たなくなっている。低価格の普及品の供給過程には、必ず何らかの形で人件費の安い後発国が関与しているからである。
 したがって今後、我が国のみが関与して提供する商品、サービスは、極論すれば、その品質(ブランド力も含めて)、機能を高めて、高い価格でも顧客から受け容れてもらえる事業しか成り立たなくなっているとの認識が必要である。そのような分野はいくらでもある。
  このことは、すべて人件費の高騰が背景にある。このような状況に対して、食の安全保障を必要とするコメのような分野では、国の補償が必要である。そのような分野は他にも多くあろう。また、国が豊かになると、ボランティアの参加が期待できる。我が国には棚田が多くあり、観光事業にも寄与しているが、多くはボランティアの参加で成り立っている。
 市場メカニズムに依存すべき部分とそうでない部分の識別が必要である。換言すれば、規制緩和と新たな規制が必要な分野がある。医療分野には特にこの視点が必要であるが、これについては別の機会に譲る。

アベノミクスには、以上の視点が欠如しているかに見える。


posted by jtta at 17:14| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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